米津玄師のニューアルバムである『STRAY SHEEP』を聴いた。
「Lemon」以降のシングルが収められた全15曲。
まるでベスト盤かのような曲のラインナップ。すごく“今”っぽいアルバムであると同時に、全編を通してアルバムを聴くとやはり根底に流れる米津らしさがにじみ出ていると感じた。
闇と光のコントラストを描く、カラヴァッジョの絵画のような感じ。
暗いもの汚いものの中にも美しさや光を見る感覚というか。
たとえば、醜さと美しさ 刹那と永遠 生と死、こうしたものが歌われていると感じる。
米津玄師という人は、人の暗い部分や内向的なところに寄り添ってくれる歌を歌う人だと思っていたのだけれど、『STREY SHEEP』を聴いてますますその思いは強くなった。
私のようにそんなところを愛している人もたくさんいるのではないだろうか。
このアルバムの1曲目は「カムパネルラ」というタイトル。
カムパネルラといえば思い浮かべるのは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』だ。
『銀河鉄道の夜』は銀河鉄道の旅を通して「本当の幸せ」の意味を知るジョバンニとカムパネルラの物語だ。そしてこの旅は死というものを内包している。
曲調は決して暗くないけれど、この曲は死を想像させるし残された者の想いのようなものを歌っているように感じる。それはこの曲だけではなくて「Lemon」あたりの曲からも感じるものだ。
もう一曲、アルバムをずらっと聞いていてひっかかった曲がある。「優しい人」という曲だ。
この曲は“不幸であるのが自分で無くてよかった”と思う人間の負の部分の感情をあえて歌っている。米津玄師のこれまでの曲のなかでもあまりないような、割と赤裸々な歌詞。
でもこの曲にはきちんと救いがある。それは優しくない自分を自覚しているけれど、それでも「優しい人」に憧れている、というところだ。
同じように「カムパネルラ」や「Lemon」でもちゃんと希望が示されている。暗い気持ちや感情を掬い取ってそっと寄り添ってくれるような歌。それが米津玄師の歌だなあと今回のアルバムを聴いてあらためて感じた。
とかいいつつちなみに私が好きな曲は、「感電」、野田洋次郎と歌っている「PLACEBO」、「Decollete」の3曲。
ドラマ『MIU404』の主題歌として書き下ろされた「感電」は、個人的に星野源演じる志摩のテーマソングのように聞いているのだけれど、ちょっと退廃的な香りをさせつつ情熱的な感じもあって良い。
バディもののドラマの歌詞としてみてもど真ん中で、「愛し合う様に 喧嘩しようぜ」という歌詞はついついトムとジェリーのテーマソング(「仲良く喧嘩しな」)を思い浮かべてふふっとなるようなところもある。
「PLACEBO」みたいなダンスナンバーを野田洋次郎が歌っているのも新鮮だし、恋に酔っているような感じが音にも歌詞にもメロディーにもあふれ出ていて、単純に聴いていて楽しい。野田洋次郎って本当にいい声してるなあと改めて思った。
「Decollete」は、単純にこういうよくわかんない感じでひょっこり出てくる米津曲が大好き。なんかちょっと昭和歌謡みたいな感じもあってそれでいておしゃれというか、「Framingo」もちょっとそういう空気感があって好きなので、ぜひこういう曲も作り続けてほしい。
本当は4月に米津玄師のライブツアー『HYPE』に行くはずだった。
延期になった振替公演も中止になり、これは誰のせいでもなく仕方ないことだけれど、本当にがっかりしている。
振替公演に行くときのためにと購入したライブグッズの蛍光オレンジのタオルは次のライブに持っていくことにして、しばらくは『STRAY SHEEP』を聴いて過ごすことにしようっと。
サブスク解禁になったのであらためて過去作も聴いていて(CD持ってるにも関わらず)、やはり「ゆめくいしょうじょ」「笛吹けども踊らず」「ししど晴天大迷惑」あたりの曲が変わらず好きだと思った次第。